腎臓のはたらき
腎臓の仕事は、身体の中の血液に溶け込んだ老廃物や余分な水分を尿として体外に排泄すること。さらに血圧の調節や血液のpHを一定に維持、身体に必要なホルモン等様々な成分を作り出す、といった生きていくために身体の中の環境を一定に保ち続ける(恒常性)とても重要な役割を担っています。
通常左右に一対の腎臓があり、一方がダメージを受けても他方がある程度仕事をまかなってくれるけれど、ひとたび多くの腎臓機能が失われてしまうと、身体中に色々な影響が出るというのもうなづけますね。
腎臓病とタンパク質の関係
食べ物は、大きく分けて<糖質・タンパク質・脂質>という3大栄養素に分けられます。このうち、糖質と脂質は身体を動かすエネルギーとして使われた後、息(二酸化炭素)や汗(水)となって体外へ出ていきます。しかしタンパク質だけは、血となり肉となり身体をつくるエネルギーとして使われた後、息や汗以外にも身体にとって有害な“老廃物”となるのに、自然に出ていくことはありません。この老廃物は、腎臓のみが除去し排泄できるのです。
慢性腎臓病の症状
慢性腎臓病のステージ
近年、他の腎機能検査よりも早い段階で腎機能の低下を発見できるとしてSDMA検査を実施している病院も増えています。
血液検査(クレアチニン)は75%、尿比重は67%もの腎機能が失われてから数値が上昇するため発見が遅れてしまいますが、SDMA検査では、平均40%、早ければ25%の腎機能が低下した段階で数値が上昇するため、早期発見、治療に役立つとされています。
ステージ分類 | 血清クレアチニン濃度 (mg/dl) | SDMA | 残存している腎機能 | 病態 |
---|---|---|---|---|
1 | 1.4未満 | 18未満 | 100-33% | 尿濃縮能の低下、タンパク尿 臨床症状なし |
2 | 1.4-2.0 | 18-35 | 33-25% | 軽度の高窒素血症、臨床症状なし~軽度(多飲多尿) |
3 | 2.1-5.0 | 36-54 | 25-10% | 中程度の高窒素血症、全身性の臨床症状(胃腸障害・貧血など) |
4 | 5.0以上 | 54以上 | 10%以下 | 重度の高窒素血症、全身性の臨床症状 尿毒症 |
表の通り、<ステージ1>では、血液検査では異常がみられず、唯一の症状は飲水量、尿量の増加です。一般的には、暑かったから、興奮したからなどと勘違いをして見逃してしまうことがほとんど。しかし、既に尿濃縮能が落ち、尿比重は低下(薄い尿)しています。
<ステージ2>では、血液検査でわずかな異常がみられるようになります。ただ、症状としてはステージ1同様に多飲多尿のみで本人は元気なので、健康診断などで偶然に発見される他はやはり見逃してしまうようです。
<ステージ3>まで進行すると、より深刻な症状が現れてきます。糸球体で血液をろ過できる量が減るため、老廃物が尿として排出されずに体内に溜まり、元気や食欲がなくなったり、下痢や嘔吐、貧血など見られるように。ここではじめて異変に気づき、動物病院へ行ったときには既に進行していた、なんてケースが多いのです。
<ステージ4>は、生命の維持が困難な重症段階です。人のように頻繁に透析することができないため、食欲が落ち嘔吐を続け、著しく痩せてしまいます。老廃物などの排泄ができず尿毒症を発症している状態です。
*腎臓病の食事療法は、ステージ1からのスタートがおすすめです。
腎臓病の分類
原因発生部位による分類
腎前性~腎臓の前に原因があるタイプ
血液循環に異常が起きて、腎臓に送られる血液量が低下することで発生するもの。血液を送り出すポンプの役割をする心臓の疾患が主な原因。熱中症で一時的に心機能が低下して起きることも。
腎臓そのものが機能を失っているわけではなく、適切な処置があれば回復可能なケース。
腎性~腎臓そのものに原因があるタイプ
糸球体腎炎、腎盂腎炎などによって腎臓のネフロン細胞そのものが障害を受けることで起きる。 毒物の摂取や、感染症、寄生虫、外傷、腫瘍、先天的な異常が原因。
腎後性~腎臓の後の尿路(尿管、膀胱、尿道) に原因があるタイプ
尿は作ったものの、スムーズに排泄できないため障害を起こし発症。その先の排泄経路である、膀胱や尿道の結石など尿路結石症が代表的な原因。
腎臓以外に原因があり、腎臓に異常があるわけではないので、適切な処置により回復の可能性がある。
経過による分類
急性腎臓病
原因が生じてから早くて6時間、遅くても1週間以内に発症し、急激に症状が悪化。一時的に低下した機能は、回復させることができる。腎前性、腎性、腎後性3つの可能性があるが、尿路結石症などの腎後性が最も多い。その他には鉛などの重金属やヒ素、毒キノコ、人間用の薬の誤飲など毒物の摂取などがある。腎臓は腫れて大きくなる。
慢性腎臓病
徐々に進行するので、5年以上経過してからはっきりした症状が現れる場合が多い。腎臓そのものに原因があり、炎症が徐々に広がって慢性的にダメージを受ける。その他にも、歯石に繁殖する細菌が出す毒素が心臓に悪影響を及ぼすと同時に腎炎の原因となる。慢性の場合、一度ダメージを受けて低下したネフロンは、二度と回復しない。腎臓は固く萎縮する。
腎臓病とタンパク質の関係
繰り返し述べているように、慢性腎臓病ではダメージを受けた腎機能は回復しないため、完治することはありません。 そのため、対処療法による治療をしながら生活の質を下げないように上手に付き合っていく必要があります。治療として、食事療法、薬物治療による貧血改善、脂質代謝管理、糖代謝管理などを総合的に行いますが、その中で、食事療法の果たす役割は極めて大きく重要です。程度の軽いステージ1から専用の食事に切り替えるほど経過は良好といえるため、日頃からワンちゃんをよく観察してなるべく早期に異変に気付くことが大切ですね。