愛犬と私の散歩みち 第4回

第4回 coo・nico・muni(ボストン・テリア)

愛犬と飼い主は、さまざまな形の絆で結ばれています。パートナーとして歩んできた道には、それぞれのかけがえのない物語があることでしょう。毎日の散歩を通じて、私たちはその愛の物語を紡ぎます。本連載では、そんな皆さんの「散歩みち」を紹介していきます 。

第4回は、ボストン・テリアの「muni」(♀8歳)と暮らす柳澤弘美さん。初代のcooからnicoへ、そしてmuniへとバトンを繋ぎ、長年ボストンの女の子と人生を歩んでいます。東京でモデルとして活躍した後に、諏訪湖畔で完成した「犬中心の生活」とは?(内村コースケ / フォトジャーナリスト)

フレンチ派?ボストン派?

僕が初めて飼った犬は、フレンチ・ブルドッグの「ゴースケ」だった(「愛犬と私の散歩みち」第1回 )。白黒のパイド柄で、フレンチにしては足が長く、よくボストン・テリアと間違えられた。似たような顔だけど、ずんぐりむっくり体型のフレンチか、スラッとしたボストンか。当初迷ったのをよく覚えている。

犬を飼う人は、自分と似た見た目の犬に惹かれがちだとよく言われる。スラッとした体型が素敵な柳澤弘美さんは、やはりボストン・テリアを選んだ。叔父が昔、狆(ちん)のブリーダーをしていて、実家で何代か飼っていたこともあり、鼻ぺちゃ犬に親しみがあった。高校卒業後、東京に出てからは、しばらく犬がいない生活に。その頃は、また犬がいる暮らしに戻りたいと、最初はフレンチ・ブルドッグを迎えたいと思っていた。「それが、23、4の頃かな。友達の知り合いが抱いていたボストン・テリアに一目惚れして以来、ボストンを飼うのが夢になりました」

実家の家業は、ニット製品の会社。長野県の諏訪湖のほとりで70年以上、ニットの洋服やバッグ、クッションなどの製造販売をしている。弘美さんも子供の頃から洋服が好きで、服飾学校に進んだ。そこでファッションショーをするサークルに入り、先輩の紹介で学生時代からモデル事務所に所属して活躍した。

「一度は毛糸メーカーに就職が内定したのですが、内定式を忘れて、当日学校の授業に出ていたんですよ。お昼に気付いて会社に電話をしたら『前代未聞だ』と。後日謝りに行ったら、常務さんに『君、本当はモデルの仕事を続けたいんでしょ。事務所紹介しようか?』と言ってくださって。『そこは自分でちゃんとしますので。申し訳ありません』と、結局就職はせずに、あらためてモデルの仕事に就きました」

トレーニングで気づいた意思疎通の大切さ

最初に迎えたcoo(柳澤弘美さん提供)

従姉妹(いとこ)が、ドラマ『北の国から』の蛍ちゃん役などで有名な女優の中嶋朋子さん。上京後、2年ほど都内の中嶋家に居候し、学校を卒業する少し前に一人暮らしを始めた。

そして、モデル業を続けながら結婚し、ペットが飼える家に転居していた2001年、ついに念願のボストン・テリア「coo(クー)」を迎えた。「10kgくらいの大きな女の子。それがすごいじゃじゃ馬だったんです」。ペットショップで買うのは良くないと思い、当時黎明期のインターネットで探し当てたブリーダーから迎えた。「今にして思えば、ブリーダーというより繁殖家だったかもしれません。持って生まれた性質があまり安定していないというか、暴れん坊で。すごく悩んで育児ノイローゼみたいになってしまいました」。散歩では引っ張り癖が強く、興奮しやすくて弘美さんの足を噛みながら歩く、といった具合だった。

そこで、インターネットで知り合ったトレーナーもしている犬友だちのもとへ、個人レッスンに通った。「一緒にやることで一体感が生まれ、cooが喜んでいるのがすごく分かりました。そして、犬と向き合うことの大切さを学びました。それまでは、向こうも言いたいことが伝わらない、私も伝わらないから、お互いがキーッと、感情的になってしまっていたんですね」

意思疎通ができるようになると、cooはみるみる落ち着いていった。育児ノイローゼの種だった散歩道は、絆を深めるかけがえのない道になった。一方、離婚などをきっかけに東京生活に区切りをつけ、下諏訪の実家に戻って再婚するという、生活の大きな変化があった。cooは弘美さんの新たな一歩を見届けると、再婚の1週間後に、誤飲の手術で麻酔から目覚めず、8歳半で永眠した。 

みんなと歩く森の散歩みち

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cooから絆のバトンを渡されたnico(右)とmuni。ペットロスの弘美さんに笑顔が戻った(柳澤弘美さん提供)

「やはりペットロスになってしまいました。cooの寝息すらも聞こえない無音の家にいるのがとても寂しくて・・・」。そこで、新たに子犬を迎えることにした。同じボストンの女の子。家に再び笑顔を持ってきてくれたから、「nico(ニコ)」と名付けた。そして、cooが実家にいたボストンの保護犬と仲良くしている様子に触れて以来、多頭飼いをしたかったこともあり、nicoが3歳の時に、同じブリーダーから妹分のmuni(ムニ = 唯一無二の「無二」から)を迎えた。

cooの経験からトレーニングの大切さを痛感していたので、nicoとmuniとは、最初からしっかりと意思疎通を軸にしたトレーニングを行ってきた。その舞台になっている今度の「散歩みち」は、八ヶ岳山麓の森の中。大型犬を多頭飼いするのに最適な環境を求めて八ヶ岳山麓に移住してきた犬友と共に、周辺の自然豊かな森でトレーニングを兼ねた散歩を楽しんでいる。

みんなで一緒に歩く森の散歩みち

心に満ちた無償の愛を写真に

故郷に戻ってきてから始めたことがもう一つ。絆を形にするために、本格的に写真を撮るようになった。毎朝の散歩でも必ず一眼レフカメラを持ち歩く。撮るのはほとんどが犬たち、時々庭の草花。それを毎日SNSに上げている。持ち前のセンスと勉強家ぶりが写真にも発揮され、どの作品も、玄人はだしのおしゃれな写真だ。何よりも、その行間に、nicoとmuniとの間にある愛情と絆が溢れている。写真とは、撮る人と被写体の「心」を表現するものだ。

服飾の技術とセンスを生かして、ボストン・テリア専用の手作り服の製作・販売もしている。最初はなかなか体型に合う服がないcooやnicoのために手作りを始めた。それがだんだんと口コミで評判を呼び、今ではネット販売もする。あくまで趣味の延長だと言うが、新作を発表するとあっという間に売り切れてしまうほどの人気だ。

「犬たちから、何も考えずに愛することのできる存在の愛おしさを教えてもらいました。そして、こちらに帰ってきてから、自然の美しさを改めて教えてくれたのも犬たち。人との縁も繋いでくれます」。「犬中心の生活」とよく言うが、それはまさにこういうことを指すのだと思う。

nicoは昨年9月、11歳7ヶ月で天寿をまっとうした。自分が元気な限り、ずっとボストン・テリアと歩み続けるのが、弘美さんの願い。今はmuniが受け継いでいる散歩みちは、これからもずっと続くだろう。

柳澤弘美さんの作品。nico(左)とmuni
柳澤弘美さんの作品。今はmuniが絆のバトンを受け継いでいる

バンガードのドッグランに遊びに来てくださいました(2020年1月)

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