リタイア犬日記
第4回 「奇跡の夏」からその先へ

我が家にはアイメイトのリタイア犬がいます。アイメイトとは、「(公財)アイメイト協会」出身の盲導犬で、彼は10歳まで視覚障害者のパートナーとして暮らした後、私たち夫婦のもとへやってきました。自然豊かな高原で家庭犬として暮らす穏やかな老後を、日常のワンシーンを切り取った写真とともに紹介します。 (内村コースケ / フォトジャーナリスト) ※本連載は、『愛犬の友』2020年1月号から最終号の同年7月号まで掲載された「リタイア犬日記」を引き継いだものです。

厳しい冬を乗り越えて

2023年もマメスケは元気だ。前回(第3回 3本の脚で歩む自然体な日々)お伝えしたように、骨肉腫による病理骨折のため2022年7月に断脚手術をしたが、変わらず3本足で元気に駆け回っている。ここ浅間山麓の厳しい冬も無事乗り越えてくれた。

これまでの経緯を簡単におさらいすると、アイメイトをリタイアしたマメスケ(仮名。アイメイト協会の決まりで、現役アイメイトやリタイア犬の名前はトラブル防止のため公表できない)は、2019年9月に10歳で我が家にやってきた。最初の3年半は八ヶ岳山麓の別荘地と僕の東京の仕事場で暮らし、2022年1月、突然左後ろ足を浮かせるようになり、骨の癌の骨肉腫と診断された。

骨肉腫は進行の早い癌で、発覚時にはすでに肺などに転移していることが多い。有効な治療法はないとされる。また、骨の内部から組織が崩壊していくため、自然に骨折することが多く、そうした病理骨折は再生もできない。マメスケの場合、幸いレントゲンで分かる転移は見られず、痛み止めの飲み薬で様子を見ていたが、半年後に心配していた骨折が起きてしまった。折れた脚は手術で切るしか方法がなく、3本脚の生活となって今に至る。

難しい選択を迫られた春

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3本脚で歩けるようになったのは、術後3ヶ月ほど経ってからで、今では長い距離を歩く時にはカートを使いつつ、ほぼ以前と変わらず朝夕の散歩や外出ができている。

骨肉腫の中央生存期間は8ヶ月とされているから、今年の春を迎えた時点で、その倍近く頑張ってくれたことになる。その間、一度だけ体調を崩したことがあった。春先に一度呼吸が浅くなって寝込んでしまい、動物病院に駆け込んだ。癌とは関係なさそうで、感染症から来る気管支炎かもしれないと言われたが、原因はよく分からなかった。「一晩入院させて点滴を受けるか、万が一もあるので自宅で一緒に過ごすか」という選択を迫られ、悩んだ末に後者を選んだ。以前の犬たちでは、入院させて結果的に最期に立ち会えなかった経験が2度もあり、そのことが強い後悔として残っていた。

幸い、マメスケの場合は一晩で山を乗り越えてくれた。桜の季節は、痩せて少し老け込んだようにも目えたけれど、食事を少しずつ増やすなどして、1ヶ月ほどで目標体重を少し超えるところまで戻った。とはいえ、今回の選択が正しかったのは、結果論に過ぎない。入院させて助かる命もあるわけで、本当に難しい選択だと思う。
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忘れ得ぬ誕生日

梅雨入りした頃、14歳の誕生日を迎えた。まさに感無量だった。14歳といえば、大型犬としては十分に生きてくれたと言える年齢だ。12歳半で骨肉腫と診断されてから、かなり難しいとは思いつつ、この日を迎えるのが目標になっていた。それが現実になったのだから、こんなに嬉しいことはない。

その日は、少し奮発して近所のオシャレなレストランのテラス席でマメスケと一緒に朝食をとり、「頑張ったね」と撫でてあげた。帰宅してから庭で記念写真を撮り、夜は妻がマメスケのスペシャルディナーを用意した。地味なお祝いかもしれないけれど、この日のことは一生忘れないだろう。
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マメスケの導きで

昨年の夏から、僕らは以前住んでいた蓼科高原の別荘地を離れ、一つ山を越えた浅間山麓の実家で母と同居している。ここは蓼科の山荘よりも少し標高が低く、冬はいくらか過ごしやすい。夏はすぐ隣の軽井沢同様、避暑地の気候だ。山間地なのでアップダウンはあるのだけど、蓼科と違って平坦な散歩コースもあって、カート移動もなんとかなる環境だ。ちょっとした登り坂なら、マメスケは自分の脚で上手に登っていく。
この地は、両親が15年ほど前に東京から移住してきた土地で、父が亡くなった後は母が一人で暮らしていた。マメスケの断脚手術は、実家にいたゴールデン・レトリーバーの代からお世話になっている北軽井沢の病院でしてもらったのだけど、結果的にそのまま実家に居続ける形になった。母は今87歳で、マメスケに負けず劣らずの高齢。僕には、マメスケが「そろそろ一緒に暮らしてあげなよ」と、身を挺して同居に導いてくれた気がしてならない。
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癌は寛解! もうすぐ5年目の秋

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この夏、マメスケの表情はとても明るい。今年は全国的に一段と厳しい酷暑で、30度を超えることが珍しい軽井沢でも、真夏日があった。そんな中、マメスケは春先の不調が嘘のように絶好調。術後ちょうど1年後の健康診断でも異常はなく、主治医から癌の「寛解」のお墨付きをもらった。

もちろん、年齢なりの衰えはあり、前回も触れた鍼灸治療で体調維持に努めている。それから、14歳になったあたりから、よく吠えるようになった。他のアイメイト同様、マメスケもほとんど吠えなかったのだけど、最近は毎朝毎夕「はやくごはんにしてよ」と吠える。大好きなママの姿が見えなくなってもワンワン。

こうした要求吠えが出るのは認知症の初期症状という見方もあるけれど、それはそれで愛おしく感じる。
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僕たちが暮らす高原には、もう赤とんぼが飛び始めている。間もなく、出会ってから5年目の秋。奇跡の日々は、まだ続く。

(プロフィール)
 内村コースケ
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞社会部などで記者を経験後、カメラマンに転身。同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争の撮影などに従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。

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